導入
GA4の標準レポートやデータ探索機能で、サイトの分析はかなり深掘りできるようになったはずです。しかし、より複雑なビジネス課題の解決や、他データとの統合、機械学習への活用といった領域では、GA4のUIだけでは限界があります。
この「GA4上級編」では、GA4の真の力を引き出すための究極のデータ分析手法を解説します。具体的には、GA4の生データにアクセスできるBigQuery連携、そしてビジネス固有のニーズに応えるカスタムイベント・ディメンション・指標の活用に焦点を当てます。この記事を読めば、データに基づいた意思決定を次のレベルへと引き上げ、競合に差をつけるための高度な分析スキルが身につくでしょう。
第1章:なぜGA4の生データが必要なのか?BigQuery連携のメリット
GA4のUI(ユーザーインターフェース)は非常に便利ですが、以下のような制約があります。
- サンプリング: 大量のデータの場合、GA4のレポートはサンプリングされたデータに基づいて表示されることがあります。これにより、分析の精度が低下する可能性があります。
- 集計データの制約: GA4のレポートは、あらかじめ集計されたデータに基づいており、自由にディメンションや指標を組み合わせて分析するには限界があります。
- 他データとの統合の難しさ: CRMデータや広告プラットフォームのデータなど、GA4以外のデータと統合して分析するには、GA4のUIだけでは不十分です。
これらの課題を解決するのが、GoogleのクラウドデータウェアハウスであるBigQueryとの連携です。
BigQuery連携で可能になること
- 非サンプリングの生イベントデータへのアクセス: GA4で発生するすべてのイベントデータ(ユーザーID、イベント名、イベントパラメータなど)を、サンプリングなしでBigQueryにエクスポートできます。
- 複雑なSQLクエリによる自由なデータ抽出・加工: SQLを使って、GA4のUIでは不可能な複雑な条件でのデータ抽出や、複数のテーブルを結合した分析が可能です。
- 他データソースとの統合分析: BigQueryに集約したGA4データと、CRM、広告、オフラインデータなどを統合し、より包括的な顧客分析やマーケティング効果測定ができます。
- 機械学習(ML)モデルへの活用: BigQuery上のGA4データを直接、機械学習モデルの学習データとして利用できます。
第2章:BigQuery連携のセットアップとデータ構造の理解
GA4とBigQueryの連携設定手順
- Google Cloud Platform (GCP) プロジェクトを作成し、課金を有効にします。
- GA4の管理画面から「BigQueryのリンク」設定を行い、GCPプロジェクトと連携します。
- エクスポート頻度(毎日またはストリーミング)を設定します。
GA4のBigQueryエクスポートデータ構造の理解
BigQueryにエクスポートされるGA4データは、主にevents_YYYYMMDD
という形式のテーブルに格納されます。このテーブルは、イベントごとに1行のデータが記録されており、イベント名、タイムスタンプ、ユーザー情報、イベントパラメータなどが含まれます。イベントパラメータはネストされた構造になっているため、SQLで扱うには少し慣れが必要です。
GA4データをBigQueryで扱うための基本的なSQLクエリ
-- 特定のイベントの発生数をカウント
SELECT
event_name,
COUNT(event_name) AS event_count
FROM
`your_project_id.analytics_xxxxxxxxx.events_*` -- xxxxxxxxはGA4のプロパティID
WHERE
_TABLE_SUFFIX BETWEEN '20250101' AND '20250131' -- 分析したい期間
GROUP BY
1
ORDER BY
event_count DESC;
-- 特定のページの閲覧数をカウント
SELECT
(SELECT value.string_value FROM UNNEST(event_params) WHERE key = 'page_location') AS page_url,
COUNT(event_name) AS page_view_count
FROM
`your_project_id.analytics_xxxxxxxxx.events_*`
WHERE
event_name = 'page_view'
AND _TABLE_SUFFIX BETWEEN '20250101' AND '20250131'
GROUP BY
1
ORDER BY
page_view_count DESC;
第3章:究極のカスタム分析:カスタムイベント・ディメンション・指標の活用
GA4のUIやBigQuery連携を最大限に活用するには、標準で用意されているイベントやディメンションだけでは不十分な場合があります。
カスタムイベント
- 目的: ビジネス固有の重要なユーザー行動(例:特定の動画の視聴完了、資料請求フォームの特定ステップでの離脱、特定のキャンペーンバナーのクリックなど)を計測したい場合。
- 実装: Googleタグマネージャー(GTM)やgtag.jsを使って、任意のタイミングでカスタムイベントを送信します。
- 実践例:
- 動画コンテンツの視聴完了率を正確に把握する。
- 複数ステップのフォームで、各ステップでの離脱率を詳細に分析する。
カスタムディメンション・指標
- 目的: イベントやユーザーに付加情報を紐付け、より詳細な分析軸を追加する。
- 種類:
- イベントスコープ: 特定のイベントに紐づく情報(例:購入イベントの「商品カテゴリ」「購入方法」)。
- ユーザースコープ: ユーザー全体に紐づく情報(例:ユーザーの「会員ランク」「初回訪問時の参照元」)。
- アイテムスコープ: 商品アイテムに紐づく情報(例:商品の「色」「サイズ」)。
- 実装: GTMやgtag.jsでカスタムイベントパラメータやユーザープロパティを送信し、GA4の管理画面でカスタムディメンション/指標として登録します。
- 実践例:
- ブログ記事の「著者名」をカスタムディメンションとして設定し、著者ごとの記事のパフォーマンスを分析する。
- ECサイトで「商品の色」をカスタムディメンションとして設定し、色ごとの売上や閲覧数を分析する。
第4章:BigQueryとLooker Studioで高度なダッシュボード構築
BigQueryに蓄積されたGA4の生データは、Looker Studio(旧Googleデータポータル)と連携することで、視覚的に分かりやすい高度なダッシュボードを構築できます。
- BigQueryとLooker Studioの連携方法: Looker StudioのデータソースとしてBigQueryのテーブルを指定します。
- BigQueryのデータを使ったカスタム指標・ディメンションの作成: Looker Studio上でSQLを使って、BigQueryの生データから独自の指標やディメンションを定義し、ダッシュボードに表示できます。
- ビジネス課題解決のための高度なダッシュボード構築例:
- 顧客LTV(Life Time Value)分析ダッシュボード: 顧客の生涯価値を算出し、優良顧客の特性を分析。
- クロスチャネルアトリビューション分析ダッシュボード: 複数のチャネルを横断した顧客の行動パスを分析し、各チャネルの貢献度を評価。
- ユーザーセグメント別行動分析ダッシュボード: 特定のユーザー層(例:高額購入者、特定コンテンツ閲覧者)の行動を詳細に可視化。
第5章:機械学習とGA4データ
GA4は、BigQuery連携を通じて機械学習との親和性が非常に高いです。
- GA4の予測指標の活用: GA4には、ユーザーの行動履歴から「購入の可能性」や「離反の可能性」を予測する機能があります。これらの予測指標をBigQueryにエクスポートし、より詳細なセグメンテーションや施策に活用できます。
- BigQuery上のGA4データを使ったカスタム機械学習モデルの構築:
- 顧客セグメンテーション: 購買行動やサイト内行動に基づいて、顧客を自動でクラスタリング。
- 離反予測: 離反しそうなユーザーを早期に特定し、引き止め施策を実行。
- パーソナライズされたレコメンデーション: ユーザーの行動履歴から、次に興味を持ちそうなコンテンツや商品を推奨。
- Google Cloud AI Platformなど、MLプラットフォームとの連携: BigQueryのデータを直接、Google Cloudの機械学習サービスに連携し、高度な分析や予測モデルを構築できます。
まとめ
GA4の「上級編」で解説したBigQuery連携とカスタムイベント・ディメンションの活用は、GA4のUIだけでは見えない、ビジネスの成長に直結する深いインサイトを引き出すための強力な武器となります。
技術的なスキルとビジネス課題への深い理解、そしてデータに基づいた仮説検証のサイクルを回すことで、あなたのWebサイトはデータドリブンな意思決定の最前線に立つことができるでしょう。今日から、GA4の生データと向き合い、究極のデータ分析の世界へ足を踏み入れてみませんか?
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